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大阪地方裁判所 昭和50年(ミ)8号 決定 1976年4月15日

申立人 太平工業株式会社

右代理人弁護士 稲田輝顕

同 遊佐光徳

同 稲田繁司

被申立人 日興観光株式会社

右代理人弁護士 鳩谷邦丸

同 三瀬顕

同 近藤正昭

同 中藤幸太郎

主文

日興観光株式会社につき更生手続を開始する。

理由

第一、申立の要旨

一、被申立人の概要

会社の商号 日興観光株式会社

本店の場所 大阪市南区安堂寺橋通一丁目二六番地の一

会社の発行済株式の総数 二万株

資本の額 一〇〇〇万円

会社の目的 1.ゴルフ場の造成並びにその経営管理

2.ボーリング場の経営並びに管理

3.観光ホテルの建設並びにその経営管理

4.前各号に附帯する一切の業務

株主 一一名

代表者氏名 梅本昌男

業務の状況 被申立人は、昭和四七年三月頃、兵庫県加東郡社町平木所在の山林約五〇万坪をその所有者である宗教法人清水寺および平木区から二七ホールズのゴルフ場用地として賃借したうえ右ゴルフ場造成工事を申立人に依頼し、昭和四九年一〇月に一八ホールズの工事が完成した。被申立人はその引渡を受けると直ぐにサンイーストカントリーと称するゴルフ場をオープンし、申立人は残九ホールズの工事も完成していつでも引渡しができる状態にある。

二、申立人適格

1.申立人はサンイーストカントリー倶楽部の会員として被申立人に対し一億四〇〇〇万円(一口二八〇万円、五〇口)の預託金返還請求権を有し、この債権額は被申立人の資本の一〇分の一以上に該当する。

2.申立人は被申立人との間で昭和四七年一〇月二一日に右ゴルフ場造成の工事を一五億二〇〇〇万円で請負い、その後請負金額は昭和四八年五月に二九億八〇〇〇万円、さらに昭和四九年四月二五日に四二億円と約定され、現在三五億円以上の工事残代金債権を有し、この債権額は被申立人の資本の一〇分の一以上に該当する。

三、更生手続開始の原因たる事実

1.被申立人の資産・負債その他の財産状況

被申立人には有形固定資産は殆んどなく、昭和五〇年二月二八日現在の被申立人作成の試算表によれば、

流動資産合計 金六八億五四〇八万一〇二九円

固定資産合計 金一億二七六七万三〇九八円

負債総額 金七四億二九二七万九八九七円

資本金 一〇〇〇万円

であり、被申立人は金四億五七五二万五七七〇円の債務超過の状況にある。

2.破産の原因たる事実

被申立人は既に四億円以上の債務超過にあり、かつ資金不足から支払不能の状態に陥っているものである。

(一)申立人は、前記工事残代金中五億円について、

昭和五〇年一月から同年一〇月までの間毎月末を支払期日とする被申立人振出の額面五〇〇〇万円の約束手形一〇枚の交付を受けこれを所持するものであるところ、被申立人から右一月末日を支払期日とする約束手形については、資金不足を理由に手形差替方の申出を受けたのでこれに応じたが、二月末日及び三月末日を支払期日とする各約束手形はいずれも次項の和議開始の申立に伴う保全処分命令により、その支払を拒絶された。

(二)被申立人は、既に資金不足から昭和五〇年二月三日付で大阪地方裁判所に対し昭和五〇年(コ)第四号の和議開始の申立をなし、この申立に伴い同裁判所から昭和五〇年(モ)第八八五号の弁済禁止等を内容とする保全処分の決定を受け、その後、申立人は和議を成立させるべく被申立人に対し種々協力してきていたにもかかわらず、被申立人は昭和五〇年四月八日何故か申立人に無断で右和議申立を取下げ、同月一一日右保全処分取消の決定がなされていることが同月二八日に至ってはじめて判明した。

(三)右和議取下げは、申立人に無断であったため保全処分命令を理由に支払を拒絶された前記各約束手形の支払方法に関し何ら申立人との間に合意がみられず、その後再三にわたる双方の協議にも進展がみられず現在に至っているものである。

四、更生の見込

ゴルフ場会社は、適正会員数を限定するとともに会員券を適正価格で販売し、その募集代金をもって巨額の造成工事代金の支払をなし、他方プレー代収益によりゴルフ場会社の経営を維持するのが通常の経営方法である。従って、ゴルフ場会社を経営するには、(1)会員募集、(2)募集会員増加によるプレー人口の増加は必須の条件である。しかして右(1)・(2)の条件を可能にするには勿論ゴルフ場そのものが立派であることを前提とするが、ゴルフ場会社の人的物的構成が如何なるものかによって大きく左右されるものである。そこで、被申立人の人的物的構成が社会的信用を得るものであれば、被申立人の更生は十分見込まれるものといわなければならない。

1.プレー代の収益

被申立人は昭和四九年一〇月二九日から一八ホールズをオープンして営業を継続しているが、昭和五〇年二月まではオープン間もないこととシーズンオフであることから利用者は平均一日四〇名位しかなく、利用者一人当りの営業収入が平均金一万円であるところから月間売上は約一二〇〇万円で、これに対する経常経費は毎月三〇〇〇万円を要するので、毎月一八〇〇万円程度の赤字を出していた。しかし同年三月以降は、ゴルフシーズンを迎え利用者も増加する傾向があって利用者は平均一日一二〇名程度に(月間売上三六〇〇万円)達し、経常収支のバランスは取れている。そして同年一〇月に残九ホールが完成したので二七ホールズ全部をオープンし、かつ会員募集が順調にいけば利用者を一日二五〇名位まで増加でき、月間売上七五〇〇万円も可能であり、荒利月間一五〇〇万円を十分見込むことができる。

2.会員券の販売代金

被申立人のゴルフクラブの会員は、現在一〇三六名(他に二七九名の週日会員がいる)で預託金総額は金二二億四三八六万円である。

前記の九ホールズも加えて二七ホールズがオープンすればゴルフクラブの適正会員数は二四〇〇名まで可能であるところから、会員券の発行は一三六四口分の余地があり、適正価格一口当り金二〇〇万円として預託金二七億円余の資金調達を見込める。

しかるに、現在、被申立人は使途不明金を約一二億円計上しているばかりか原因関係不明の約一〇億円に達する所謂街の高利貸から高金利の借入金を導入する等、極めて杜撰な経営をしている。

かかる杜撰極まる放漫経営のため、会員券の販売委託を受けている株式会社そごう百貨店の協力を得られず会員券の販売がストツプしている現状である。

他方、被申立人はその生命ともいうべき会員券を前記保全処分命令に違反して高利貸に対し代物弁済として交付し、前記の会員券発行余力を減少せしめている。

3.以上の次第で、被申立人につき資本の充実、人的構成の改革、否認権行使による会員券の取戻等に成功し、かつ六項で述べる申立人の更生手続に対する協力があれば、被申立人の更生は十分見込まれるものである。

五、更生計画に対する意見

前記四記載の状況であるので、更生計画に際しては次の点に留意しなければならない。

1.累積赤字は、まず増資によってこれを補い資本充実を図ること。

2.被申立人の現役員を変更し、被申立人の信用を回復して株式会社そごう等の協力を得、会員券販売を容易にすること。

六、申立人の更生手続に対する協力

被申立人の更生については、前記の如く、同会社経営陣の全面的更迭、および資本の充実が前提となるが、これに併わせて同社に対する唯一ともいうべき大口債権者である申立人の協力がなければその実効を期し得ないことは明白である。

そこで、申立人としては、被申立人の将来性を考慮し、この際、同社の更生に全面的に協力することとし、自己の有する同社に対するゴルフ場造成工事債権の回収を一定期間猶予するとともに次の諸措置を講ずることとしたい。

1.被申立人の資本の充実について

(一)被申立人の現役員のすべてについて退陣を求め、これに代るものとして大阪財界の有力者をあて、被申立人の地位向上に努めることとする。このためには申立人の大株主である新日鉄株式会社およびその傘下の各系列会社の協力を得ることが必要であるが、この点についてはすでに諒解済みである。

(二)右の方法により新たな経営体制を整えることによって資本の増加を実現させ、被申立人を人的物的に充実させ、申立人の工事代金債権を除く債務の弁済を図り、経営の健全化を達成することとする。ただ、ここで問題とすべきは、既に裁判所任命にかかる調査委員の報告によっても明らかである使途不明金一〇余億円の債務の処理如何の点であるが、これについては、刑事、民事手続によってその性格、および発生原因を追及し、会社債務と関係がないことが明確となったものについては、従来の役員についてその責任を問うことが前提となるであろう。

2.ゴルフ場施設等の整備について

(一)現在被申立人は既に引渡済の一八ホールズをもって営業を継続し、その営業収入は漸次向上して来ている実情にある。従来においてその業績の向上が、比較的緩慢であったのはその立地条件によるところが大であったと考えられるところ、昭和五〇年一一月中国縦貫道の開通が実現し、このため、京阪神近郊から約一時間内外で利用できることとなって、立地条件の不利が解消され、さらに、工事完了のまままだ引渡しをしていない残り九ホールズを加えて計二七ホールズとして営業することとした場合、営業実績の向上は顕著であると予想できる。

(二)右営業実績の向上について問題となるのは、当該ゴルフ場自体に内在する地質学的欠陥である。しかしながら、これについては、申立人において今後継続して改良工事に努めることとしており、その成果は期して待つべきものがあるというべきである。従って、これに前記立地条件等の改善を考慮に入れるとき、営業収入の飛躍的増加は望み得ないとしても経常支出を補って余りあることは容易に推認し得るところであり、被申立人には更生の見込が十分にあるといわなければならない。

3.会員券の販売について

(一)被申立人に対して更生手続が開始された場合に、会員券の販売が困難となることは一般的に予想されるところであるが、申立人としては前記のとおり被申立人の更生について新日鉄株式会社およびその傘下系列会社の協力を得ることとしており、会員券の販売についても当然これら諸会社の手を通じて行なうことを予定しているところである。

(二)ところで、本件ゴルフ場の正会員券発行済数は約一五〇〇余を数えるところであるが、以上述べた諸点が実現された場合における同券発行余力は最小限度一〇〇〇枚は可能であり、これに加えて同数の週日会員券の発行も同様許容されるところである。そして、正会員券一枚につき概算二〇〇万円とした場合今後において約二〇億円余の収入増加を考慮したならば、申立人の債務も弁済し得る見込があるとみるべきである。

七、申立人と被申立人の交渉経過

1.申立人は本件ゴルフ場造成工事請負代金の決済方法について被申立人と数次にわたる折衝を行い、その都度交渉の結果を念書、もしくは覚書の形で文書化し、その誠実な履行を期待して鋭意工事の完成に努力し、前記の如く、既に右造成にかかるゴルフ場のうち一八ホールズについては工事および引渡しを完了し、会員等によるプレーが続けられており、残る九ホールズについても工事を完了し引渡しを待つ状態にある。しかるに被申立人は右数次にわたる交渉の結果相互に取り交した覚書、念書等で確約した重要事項を遵守することなく、ことごとくこれに違背し、ついに現在の事態に立ち至ったものである。これら被申立人の背信的違約事項を列挙すると概ね次のとおりである。

(一)昭和四七年一二月、従来における被申立人の人的構成、資産状況から、申立人としては工事を続行しても請負代金が未回収となる虞れが大であると考え、被申立人に対しその旨申し入れて折衝の結果、工事続行の基本的前提として、被申立人の経営体制に社会的信用ある経済人を加え、その経営基盤を確立するとともに、被申立人は、これら新たに経営に参加した人達によって運営されることとしてその旨の約定を結び、これによって、西澤袈裟人、広瀬省三などの堅実な会社経営者が被申立人の取締役に選任されたのである。しかるに、被申立人、特に現代表取締役である梅本昌男は、これら経営に参加したものをいわゆる「つんぼ棧敷」において独善的な経営を行ない、最終的には右西澤、広瀬をして退陣することを余儀なくさせ、被申立人の社会的信用を低下させるに至ったのである。

いうまでもなく被申立人の運営資金はその殆んどすべてを会員券売買に求めなければならない状態にあり、その売買が順調に行われるためには、ゴルフ場の優劣、立地条件が当然の前提となるとしても、その経営体制が社会的に信用あることが重要な要素を占めることは自明である。その故に申立人は前述したように工事続行の基本的前提としてこれを求めたのであるが、被申立人は、その厳重な誓約にもかかわらず、また、申立人に対する一言の諒解もなくしてかような事態を招来したものであってその背信的行為は重大であり、申立人として到底許容し得ないところである。

(二)次に申立人は、造成工事の進捗にかかわらず、出来高払とされている工事代金が依然として支払われようとしないところから、これについても数次にわたる折衝の末、昭和四九年九月二二日被申立人との間において、造成工事代金の支払方法、およびその担保となる会員券の寄託関係を明確にするための覚書を取交した。

右覚書作成に当っては、従来における被申立人の支払状況等に鑑み特に同会社の貸借対照表の呈示をもとめ、同社の債務が右貸借対照表記載以外にないこと、ならびにその唯一の資金源となる会員券についてその時点における発行済会員券数が会員名簿記載以外にないことをそれぞれ確認したうえ、これを前提として右覚書を取り交わしたのである。しかるに、被申立人は、右覚書によって被申立人の工事代金支払を信頼した申立人によって既造成工事を完了したゴルフ場一八ホールズの引渡しを受け、仮オープンにこぎつけるや、数ケ月を経ずして突如として申立人に対し、前記貸借対照表記載の債務以外に、なお七億二八〇〇万円にのぼる高利金融による負債がある旨を通告して来たのである。かような措置自体、既に詐欺的要素を含み健全なる会社経営者としての適格を疑わせるに足るものであるが、申立人としても現実の問題としてこれに直面せざるを得ず、事の重大性を考慮した結果、被申立人に対し、前記覚書にかかわらず週日会員券五〇〇枚以内を発行し、その範囲内において右債務を処理するよう通告し、事態の収拾を図ろうとしたのである。ところが、被申立人は、申立人の右通告を無視し、その承諾を得ないで、新たに正会員券約五四〇枚を発行して右債務の処理に当て、それのみならずその後においても、会員券の発行権限はすべて被申立人にあると称して正会員券を発行しているのである。これら被申立人の行為は前記覚書による「新たなる会員券の発行は、すべて申立人に対する債権担保のため、その種類を問わず、会員権証書を申立人に預託したうえ、その承諾を得たうえですること」とした基本的条項に全面的に背馳し、申立人に担保として預託した会員券を無価値化せしめるものであって、その背信的行為は到底正常な会社運営者の行為とは認められない。

(三)さらに、右覚書において、被申立人は本件ゴルフ場一八ホールズの引渡しの条件として昭和五〇年一月から同年一〇月まで、少なくとも毎月末金五〇〇〇万円を支払うことを約し、右約定に基づいて約束手形を振出しながら、その決済をしようとせず、同年二月三日に至り、申立人に何ら通告なくして大阪地方裁判所に和議開始の申立をするに至った。しかし、後にこれを知った申立人としても、被申立人の経営内容からみて右申立は是認し得るものであることを考慮し、申立人の承諾なくして右和議の取下げはしないことを条件として被申立人の和議による再建に協力することを申し入れ、同社も申立人の意のあるところを汲み、これを誓約した。しかるに被申立人は同年四月八日、全く申立人の諒解を得ずして右和議を取下げたのみならず、右和議取下げにあたり、高利金融債務に対する代物弁済として、前述した外さらに正会員券を無断発行するという暴挙を敢えてしたものである。

2.以上要するに、被申立人の右のような数次にわたる重大な背信行為の根底に流れるものは、結局、とにかく、ゴルフ場の造成工事を完成させ、その引渡しを受けさえすれば、請負工事代金の巨額に上ることからいずれにしても、申立人が、被申立人の申し入れを容れざるを得ないであろうとの予測に立って、当初より誠実に履行する意思がないのに覚書を作成取り交わし、また約束手形も振出して、申立人を欺罔し結局においてこれらをすべて反古化し、申立人をして現在の如何ともなし難い立場に追い込んだものといっても過言ではない。

かような被申立人の現経営陣をしてこのまま本件ゴルフ場の経営に当らせるにおいては申立人の工事代金の回収はもとより望み得ないばかりか、被申立人の経営が破滅に導かれ、善良な多数の会員に重大な被害を及ぼすに至ることは当然に予想されるところである。

ここにおいて、事態を改善する唯一の方途は、前記の如く、被申立人の現経営陣をすべて退けて新たに社会的信用ある経済人を経営に参加させ、その資本を充実させるとともに、これによって本件ゴルフ場の声価を高め、会員券の価値を増大せしめること以外にないと信ずるものである。

八、以上述べたところを綜合すれば、被申立人には更生の見込みが十分あり、かつ、会社更生手続によらなければ申立人の債権の回収、会員の保護が期待できないので、申立人は被申立人に対し更生手続を開始する旨の決定を求める。

第二、被申立人の主張の要旨

一、1.申立の要旨一項は認める。

2.同二項1の事実は認めるが、後記二の理由で申立人主張の債権は申立人に本件申立の適格を与えるものではない。

3.同項2のうち、ゴルフ場造成工事の請負代金総額が四二億円であること、および工事残代金が三五億円以上あるとの点は否認し、その他は認める。しかし、被申立人と申立人間の右ゴルフ場造成工事請負契約には後述のように無効原因がある。

4.同三項1の債務超過の状況にあるとの点および同2の資金不足、支払不能の状態に陥っているとの点は否認する。現に、被申立人は、申立人との約定により、工事代金の支払として昭和五〇年五月末日金五〇〇〇万円、六月二〇日金三〇〇万円を申立人に支払い、なお、本件申立にもとづく大阪地方裁判所昭和五〇年(モ)第五四六〇号保全処分決定がなければ、本来は、六月以降一〇月まで引続き五月分と同様、額面金額各五〇〇〇万円支払期日毎月末日の被申立人振出約束手形によって工事代金の分割支払をなす予定となっており、かつ、これについて、資金不足等の状況は全くない。また、本件ゴルフ場二七ホールズは未完成であって、弁済期が全額について到来しているとはいえない。

5.被申立人は現在の経営状態を継続する限り経営について全く不安はない。

むしろ、問題は、次の点にある。

(一)申立人は自ら本件ゴルフ場設計に始まる工事請負を開始したものであるが、設計そのものが杜撰で工事の手直しを必要とする個所が随所に生じている。

(二)グリーンはおろかフエアウエイにも、現在、大は、小児頭大の石塊や、小は相当数の、プレイに極めて支障を及ぼす石塊が出てくる状態で、到底満足なプレイができない有様であって、このことは被申立人から再三にわたり申立人に申し出ており、これらの事実から生じる被申立人の損害は甚大なるものがある。

(三)右のような状況下では、会員券の募集代金の低下はおろか、会員の獲得すら極めて困難になることが明白である。

被申立人は、右の事情にもかかわらず、本件ゴルフ場会員募集につき株式会社そごう百貨店の協力と財界有力者多数のバツクアツプを得て、経営協力を積み上げているところ、本件申立そのものが明白に申立要件を欠くものであるばかりか、本件申立によって被申立人が受けた経済的、経営的損失とマイナスは計りしれないものがある。

二、申立人適格について

1.預託金返還請求権について

(一)申立人の有する預託金返還請求権は、本件工事代金の支払にかえて、一口二八〇万円の預り証書五〇口分(総額一億四〇〇〇万円)を被申立人から交付したもので、一般にいうところの、被申立人が正規に入会金の預託をうけこれに対し預り証を発行したものではない。

(二)被申立人は申立人に対し、見積単価計算の総合計額だけでも約一〇億円という工事代金減額請求権および九ホールズを交互に閉鎖して修復するか、または、閉鎖せずに一八ホールズを順次修復するか、いづれにしてもこれに相当する瑕疵修補請求権(金額にして最低九五〇〇万円ないし一億六八〇〇万円)ならびに、手抜き工事に対する設計書記載どおりの本来の工事をなすべき履行請求権やこれら杜撰な設計施工に伴う被申立人の被った有形無形の損害に対する賠償請求権を有し、これらの金額は、すでに、前記預託金返還請求権の金額に比してはるかに多額であることは明白である。

(三)しかして、預託金返還請求権は、予め定められた期間経過後に、預託金返還の意思表示をまってはじめて発生するものであるところ、右の期間経過後の将来において申立人がもし、預託金返還請求権を行使した場合、被申立人は即時に前記反対債権を以て対当額を相殺することが可能である。

(四)このように、申立人の右権利は一定の期限経過後の将来において行使しうる債権に過ぎず、かつ、それを行使すれば即時被申立人の有する反対債権を以て相殺される権利である。

(五)要するに、会社更生手続の申立人適格として会社資本の一〇分の一以上の債権を有する債権者と定められ、なお、その債権は履行期が到来していることを必要とせず、条件付か否かも問わないと解釈されているけれども、この理は、被申立人において即時いつでも相殺できる自働債権を有する場合にまで認められるわけではない。従って、申立人の有する預託金返還請求権は申立人に申立人適格を与えるものではない。

2.請負契約の無効

(一)昭和四七年一二月一九日付基礎契約について

本件ゴルフ場造成工事請負契約(昭和四八年五月付および昭和四九年四月二五日付の契約)には、その前提として締結されたことになっている基礎的なゴルフ場建設等に関する契約(昭和四七年一二月一九日付、以下基礎契約という。)においてすでに無効原因が存する。

(1)もともと、本件ゴルフ場造成工事請負契約の代金は、当初、二七ホールズにつき一五億二〇〇〇万円と定められていたものであり、右契約は、申立人の副社長であった織毛孝三が、当時、甲陽観光株式会社(被申立人の前商号)の代表取締役として就任していた時期の昭和四七年一〇月二一日に、甲陽観光株式会社と申立人との間で締結されたものであった。

(2)ところが、昭和四七年一二月一九日には、申立人と甲陽観光株式会社(代表取締役は織毛孝三)、イゼキブレハブ株式会社、甲陽開発株式会社の四社間において、前記基礎契約の契約書なるものが作成された。

その内容は、

(イ)昭和四七年四月二八日付で締結されていた申立人と甲陽観光株式会社、甲陽関発株式会社との間の、「協定」(内容は、申立人からの役員派遣や、申立人が甲陽観光株式会社の株式を取得すること、および申立人が甲陽観光株式会社へ資金貸付をなすこと、ならびに、会員募集方法等を定めたもの)を解消すること。

(ロ)申立人が取得していた甲陽観光株式会社の株式の返還と、申立人が同会社へ貸付けしていた金銭の返済。

(ハ)申立人は、申立人から派遣していた織毛孝三ら役員を甲陽観光株式会社から引きあげること。

(ニ)ゴルフ場の今後の建設工事は、申立人と甲陽観光株式会社間の昭和四七年一〇月二一日付工事請負契約を基礎としてなすこと。

等、申立人と甲陽観光株式会社間の従前の取決めを解消する基本的に重要な事項が含まれている契約であった。

(3)しかるに、申立人は、当事者の一人であるべき甲陽観光株式会社の当時の代表取締役織毛孝三が全く知らないうちに、右会社の契約署名欄には、申立人において仕立てた「前田明二」なる者をその代理人としてこれにあてて右契約書を作成した。それのみならず、右契約書作成にあたって、申立人は我国で最大の実力を有するといわれる神戸近辺在住のいわゆる組関係者数名を利害関係人と称して立合わせ、公然たる威迫のもとに、現在の被申立人の代表者梅本昌男から、同人にとっては全く支払義務のない左記の金員の支払を強要して受領した。そして、その際、右組関係者らは、申立人現役員同席の場で、梅本に対し、本件ゴルフ場造成工事の完了と引渡しあるまで関係者として関与するという発言をした。

(イ)金一億三〇〇〇万円(但し、昭和四七年四月二八日および同月九日甲陽観光株式会社が申立人からそれぞれ六五〇〇万円を借り受けていた合計金額)

(ロ)金五五〇万円(但し、申立人が保有していた甲陽観光株式会社の株式一万一〇〇〇株につき額面五〇〇円の割合による買戻代金)

(ハ)金五〇〇〇万円(但し、当時の申立人主張にいう昭和四七月一一月二〇日までのゴルフ場建設代金の内払名目金)

支払方法、額面同額、支払期日昭和四八年六月末日、振出人梅本昇志名義約束手形一通

(ニ)金五〇〇〇万円(但し、当時の申立人の主張による、さし当りの工事代金の一部支払名目金)

(4)このような基礎契約の無効は、次に述べる本件ゴルフ場造成工事請負契約も無効にするものである。ちなみに、右のような経過は、申立人に対する被申立人の拭い難い不信感となって現在まで続いておりかかる状態を先行的に作出した申立人が、ひとり、被申立人に対してのみ、第一の七項に記載されている如く、「過去一連の契約、覚書等約定の不履行」を主張するのは、徒らに他を批難するにすぎず、不当である。

(二)本件ゴルフ場造成工事契約について

(1)昭和四八年五月付の工事代金を二九億八〇〇〇万円と定めた契約は、前記不祥事件の発生した際、終始、梅本と共に立ち会う破目になった杉原隆生(昭和四七年六月二八日から同四八年八月二日まで旧甲陽観光株式会社、現被申立人に取締役として就任していた者)が、申立人から工事費増額を目的とする再契約の申入れに対し合理的理由なしとして被申立人の取締役会で否決をしていたのにもかかわらず、前記不祥事件の威迫感から脱し切れない精神的状態のもとにあった同人が、被申立人の知らない間に全く自己の一存で契約書注文者欄に申立人の社名および代表者印を押捺し、かつ、これに、自己が代表者となって経営している株式会社日工を連帯保証人として連署したものである。

そして、申立人は、被申立人の前記取締役会の意見を右杉原から聞かされてこれを知悉していた。

(2)右杉原は、その後右事案が発覚して取締役会の責任追及を受け、右契約書作成後二ケ月を経た八月二日取締役を辞任させられ退職した。

しかし、右契約に前記の如き無効原因があったとはいえ、前記不祥事件によって蒙った精神的威迫感は、ひとり右杉原のみのことではなく、この当時の事情を知悉している当時の代表者吉井宏とても同様のことであり、まして、前記組関係者からは工事完了による引渡しあるまで関係者として関与すると申し渡されている以上、右吉井が申立人に対し右契約の無効を主張することは実際上不可能であった。

(3)右の事情は、次に、右契約が破棄された形で昭和四九年四月二五日に、当時の被申立人(代表取締役吉井宏)と申立人間で、合理的な検討もなされないままに再び工事代金が極端に増額されて四二億円なったときの契約の際も同じことである。結局、増額事由に合理的根拠がないだけでなく、契約当事者が対等の立場にあって締結したものではない。

従って、この契約の成立は無効原因が存するのである。

3.申立人の工事債務の不完全履行および被申立人の損害賠償請求権等

(一)(1)被申立人が申立人から引渡しを受けた一八ホールズはいうに及ばず、クラブハウスに至っても仕様書に反した手抜き工事が多数あり(現にクラブハウスの根幹をなす大支柱ですら工事の手抜きがなされている。)、これらはその該当個所の程度と仕様書との比較にもとづき詳検のうえ当然工事代金の減額がなされるべきである。また、粗悪な工事によって被申立人が蒙った現実の損害や、杜撰な設計と工事によって招来しているゴルフ場の信用低下ならびにこれによる会員券価格の低下等に対する損害を詳細に計算したうえで、被申立人の支払債務額の有無を確定すべきものである。

(2)申立人の設計ミス、工事の手抜き、粗悪工事等の内容および被申立人がこれにより受けている損害は次のとおりである。

(イ)被申立人が昭和四九年一〇月末に仮オープンの形で使用している一八ホールズは、仮オープン後九ケ月を経た現在においてすら、ゴルフ場としての使用に耐えられない程粗悪なものであり、一度プレーをなした者の率直な意見は、コースに関する限り、再プレーをしたい気持を失わしめるというのが一〇〇%である。

(ロ)その原因は、申立人の実に杜撰な設計とそれにもとづく工事が全く粗雑で、そのうえ、随所に工事の手抜きがあること、および殆んど全工事にわたり末端の下請業者に工事を任したまま監督の実をあげていなかったことにつきる。

かくて、現在では、部分的手直しでは到底補修できず、全コースをクローズしてでも全面修復を要する事態に立ち至っており、ためにゴルフ場そのものの信用低下は掩うべくもなく、それがひいては会員券価格の低下を招来するなど、被申立人の損害は、もはや計り難いものがあるところまで来ている状態である。

(ハ)申立人は、従来から会員券の価格は三五〇万円以上であるべしと主張して来た経緯がある。しかし、会員券の価格がゴルフ場の真価を一面において評価していると云えるとすれば、昭和五〇年七月八日本件コースを見分したゴルフ精通の識者が「会員券は一〇〇万円でも買わない」と明言していることによって明らかである。

(二)次に、申立人は、本件申立までに、被申立人に対し工事代金支払遅滞名下に数億円の遅延損害金を支払わせている。

しかし、申立人の本件工事は債務の本旨にもとづく履行があったとは到底いえないから、被申立人に工事代金の支払遅滞の責任を負わせることはできない。右支払額は、将来確定さるべき工事残代金元本に充当すべきものであるから、右時点において相殺勘定をすることを求める。

(三)更に、前記不祥事件による申立人の受領代金は、申立人が法律上の原因なくして不当に利得したものに外ならず、かくて被申立人代表者は個人として申立人にその返還を請求しうるものであるから、最終的には、被申立人が右返還請求債権の譲渡をうけたうえ、対当額でこれを相殺する予定である。

三、よって、被申立人は本件申立を却下する旨の決定を求める。

第三、当裁判所の判断

一、本件各疎明資料、被申立人代表取締役梅本昌男および申立人取締役竹内則次の審尋の結果、本件ゴルフ場に対する検証の結果、調査委員の調査報告書、保全管理人井上隆晴の意見書その他当裁判所の調査の結果を綜合すると、次項以下の如く事実を認定し、かつ、判断することができる。

二、申立人が第一の一で「被申立人の概要」として主張する事実、但し現在の株主数は七名で、その氏名および持株数は次のとおりである。

梅本昇志 七〇〇〇株

吉井宏 三五〇〇株

柴橋秀彦 三〇〇〇株

梅本昌男 二五〇〇株

大和建材興業(株) 二〇〇〇株

広瀬省三 一〇〇〇株

梅本弥重子 一〇〇〇株

計二〇〇〇〇株

なお、被申立人は昭和四六年八月一八日商号を甲陽観光株式会社として設立されたが、昭和四八年一月一〇日に現在の商号に変更した。

三、申立人の適格について

1.被申立人の経営するゴルフ場を利用する会員となるためには、サンイーストカントリー倶楽部規約第五条により所定の入会金を会社に預託することを要し、右預託金は同規約第九条により預託およびクラブ開場後三ケ年据置き、会員が退会の場合請求すれば、会員の資格喪失後二ケ月以内に被申立人から返還されるものである。

右入会金の金額は個人正会員だけに限っても一定していないが、申立人の場合は、昭和四九年三月三〇日、被申立人に対する本件ゴルフ場造成工事代金の一部である一億四〇〇〇万円の代物弁済として同会社から会員券五〇口(一口当り二八〇万円)の発行を受け、かつ、同日付で二八〇万円の預り証書五〇枚を受領している。

2.このように申立人は現実に一億四〇〇〇万円を被申立人に預託しているのではないが、これは申立人が右預託金返還請求権を有すると認めることを妨げるものではない。また、被申立人は将来申立人が預託金返還請求権を行使しても直ちに全額を相殺によって消滅させるに足る反対債権を有するので、右預託金返還請求権は申立人に申立人適格を与えるものではないと主張する。しかし、仮りに被申立人主張の反対債権があるとしても、現在申立人の預託金返還請求権を消滅させることができないのであるから、被申立人の右主張は採用できない。申立人の前記預託金返還請求権の額は被申立人の資本の額の十分の一以上であることは明らかであるから、申立人は右債権に基づき申立人適格を有すると認められる。

3.なお、被申立人は第二の二の2において申立人との間の本件ゴルフ場造成工事契約の無効を主張するので、申立人の前記一億四〇〇〇万円の債権も発生しないと主張する趣旨と解されるが、被申立人が無効原因として主張する事実があったとしても、少なくとも昭和四九年四月二五日付の請負代金を四二億円と約定した最後の契約を無効にするものではなく、右契約に基づき申立人によってその後の工事が行われ、被申立人は申立人から昭和四九年一〇月に一八ホールズの引渡しを受けて同年一一月一日からゴルフ場をオープンしてその経営を開始した事実に鑑みれば、申立人の前記一億四〇〇〇万円の債権を発生させた昭和四八年五月付の契約が仮りに無効であるとしても、被申立人は右契約および前記代物弁済契約を追認したものと認めざるを得ない。従って、申立人の前記預託金返還請求権は有効に存在すると認められる。

四、更生手続開始の原因たる事実について

昭和五一年二月二九日現在の被申立人の財政状態は別紙資産負債表記載のとおり二一億円余の著しい債務超過であるから、更生手続開始の原因たる事実のあることは明らかである。

五、更生の見込みについて

1.被申立人が一八ホールズをオープンした昭和四九年一一月一日より昭和五一年二月末日までの間、利用者の合計数は会員が六三五二名、ビジターが一四八二五名であり、その通算収支は約二億円の損失となっている。但し右損失のうち約一億八、〇〇〇万円は右オープンの日より本件申立の日(昭和五〇年六月二六日)の前日までの間に支払われた高金利借受金の利息、手数料等で、現在この借受金は消滅しているので、右期間中の実質的な赤字は約二〇〇〇万円である。

このように被申立人のオープン以来の経営成績はかんばしくなく、経常利益によってその莫大な債務を返済することは到底期待できない。

2.本件ゴルフ場の地質的条件は極めて悪く、また申立人の工事も決してよいものではなく、昭和五〇年七月八日に当裁判所が検証した時期においては、フエアウエイに多数の岩石が埋没されたままであるため打球の障害となるばかりか危険でもあり、ラフには大きな岩石が露出してラフからの打球ができないところが多く、また、グリーンの下に大きな岩石があるためカツプを切ることができない場所も多かった。

3.しかし、被申立人の現代表者の努力によって従業員の教育が十分行われたため、プレイヤーに対する従業員の応接の態度が非常によく特にキヤデイーのマナーの良さは既に定評を得ているといって差支えない。そして、昭和五〇年一〇月一六日の中国縦貫道路の開通は本件ゴルフ場の立地条件を著しく改善した。また、申立人はコースの整備補修を続けており、更生手続が開始されれば、整備補修を継続するとともに完成した残りの九ホールズも引渡す旨表明しているので、九ホールズずつ閉鎖してコースを十分整備することもできるし、二七ホールズで営業することもできる。

4.被申立人に対する債権者としては申立人が殆んど唯一の巨額の債権者である。その他の債権者としては、約二四五〇万円の工事代金債権者が一社、貸金債権をもつ被申立人代表者ならびに会員およびゴルフ場敷地の賃貸人がいるが、会員に対する債務の不履行や賃料の未払はない。

このような申立人が、被申立人について更生手続が開始されれば被申立人の再建に積極的に協力する旨表明している。前記の如く、被申立人の経常収入によって巨額の債務を返済することは期待できないから、右債務弁済の資金は会員券の販売による他はない。被申立人には少なくとも正会員券、週日会員券各一〇〇〇枚の発行余力がある。そして、被申立人が更生会社になった場合その販売が困難になることは一般的に予想されるが、この点については申立人の大株主である新日鉄株式会社およびその系列会社の協力が得られる見込みである。

5.被申立人を取りまく以上の諸条件を考慮すれば、管財人による適切な経営が行われるときは、被申立人に更生の見込みはないとはいえない。また、本件ゴルフ場の敷地は賃借地であり、被申立人には見るべき資産もないから、会員保護のためにも更生手続の必要性が高い。

六、結論

そして、その他に会社更生法三八条各号所定の申立を棄却するべき事由も認められないので、本件申立を認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 首藤武兵 裁判官 菅野孝久 大谷種臣)

<以下省略>

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